コラム

オフィシア・ニュースレター: 仕事と家庭の両立対策

オフィシア・ニュースレター: 仕事と家庭の両立対策

執筆者
株式会社オフィシア法律顧問
原 文之

1. はじめに

労働政策審議会の雇用均等部会では、昨年(平成 27 年)9 月以降、仕事と家庭の両立支援対策の充実についての審議を重ねてきたが、昨年 12 月 21 日にその結果を労働政策審議会に報告し、同審議会はこの報告に基づいて厚生労働大臣に対して建議を行った。厚生労働省は、この建議に沿った立法措置、指針の策定などを行うことが予想されるので、今回のオフィシア・ニュースレターではこの報告の概要をご紹介する。

仕事と家庭の両立については、本来、仕事と個人生活のバランス(いわゆる「Work-Life Balance」)の一部として、個々人の人生観にも及ぶものであり、日本においては有給休暇の取得率の低さ、残業時間の多さなど Work に偏ったものであることが指摘されている。今回の建議は、そのような広い意味での仕事と個人生活のバランスではなく、特に、仕事と介護、仕事と子育ての両立に着目して国の政策として両立支援を充実するための具体的施策を提案するものである。

 

2. 仕事と介護の両立支援制度の充実

報告は、介護が①いつまで続くか分からない予見性が低いものであること、②個々の事情が多様であること、③介護は社会全体で支えるものであること、を前提として、仕事と介護の両立支援制度は、労働者自身が日常的な介護そのものをすべて自ら行うということを前提とするのではなく、介護休業制度、介護休暇制度、所定労働時間の短縮措置を次のように位置づけている。

(ア) 介護休業制度

報告書は、介護休業は、突然介護が必要となった急性期、看取りの時期、介護施設間の移動、病院への入退院、要介護者の状態の大きな変化等に対応するためのものと位置づけ、通算して取得できる日数は現行の 93 日のままとするが、必要に応じて 3 回まで取得することができるようにするべきであるとしている。また、介護休業を取得することのできる対象家族について、祖父母、兄弟姉妹及び孫について同居・扶養をしていることという現行の要件を外すべきであるとしている。更に、対象となる「常時介護を必要とする状態」の判断基準も在宅看護の普及を考慮しを緩和すべきであるとしている。

(イ) 介護休暇制度

報告書では、介護保険関係の手続き、ケアマネージャーとの打合わせ、通院時の付添等、丸一日休暇を取得する必要がないケースも考えられることから、原則として半日(所定労働時間の 2 分の 1)単位での取得を可能とするのが適当であるとしている。

(ウ) 介護のための所定労働時間の短縮措置等

現行、家族による介護を行うやむを得ない事情がある場合の緊急的対応措置として、必要な期間、介護休業を取らない労働者に対して、日常的なニーズに対応するために介護休業と併せて 93 日を限度として、①短時間勤務、②フレックスタイム、③始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ、④介護サービスの費用を助成する制度その他これに準ずる制度のいずれか一つ以上の措置を講ずることとなっているが、報告書は、これを介護休業とは独立させて、利用を申し出たときから 3 年以上の期間措置とし、3 年以上の間で少なくとも 2 回以上の申し出が可能となる制度とすべきであるとしている。

(エ) 所定外労働の免除

報告書は、日常的な介護ニーズに対応するため、介護に係る所定外労働の免除を法律上に位置付けるべきであり、この場合、原則として、介護終了までの期間について請求できる権利として位置付けることが適当であるとしている。

(オ) 仕事と介護の両立に向けた情報提供について

報告書は、また行政と企業の双方において両立支援制度や介護保険制度の仕組み等についての周知、相談対応、支援の充実を図るべきであるとしている。

 

3. 仕事と子育ての両立支援制度の整備

報告書では、多様な家族形態・雇用形態に対応した育児期の両立支援制度等の整備についても提言を行っている。その具体的内容は次のとおりである。

(ア) 子の看護休暇について

子の健康診断や予防接種等に対応するためには、丸一日の休暇を取得する必要がないこともあることから、半日単位の取得が可能となるようにすることを提言している。

(イ) 有期契約労働者の育児休業等取得要件の緩和について

報告書では、パートタイムや派遣労働者等の有期契約労働者の育児休業取得率が正規雇用労働者に比較して低いという現状認識に基づき、有期契約労働者の育児休業取得要件の緩和を提言している。現行の要件は、①同一の事業主に引続き 1 年以上雇用されていること、②子が 1 歳に達する日を超えて引続き雇用されることが見込まれること、③子が 1 歳に達する日から 1 年を経過する日までの間に、労働契約期間が満了し、かつ労働契約の更新がないことが明らかである者を除く、とされている。このうち②の要件については、労働者にとっても事業主にとっても予想が容易でなく分かりにくいという問題があることから、育児休業の取得を促進するためこれを削除し、現行の③の要件を、「子が 1 歳 6 か月に達するまでの間に、労働契約期間が満了し、かつ、労働契約の更新がないことが明らかである者を除く。」とするべきであるとしている。

また、有期契約労働者の介護休業の取得要件についても、現行では、①同一の事業主に引続き雇用された期間が 1 年以上であること、②休業開始日から起算して 93 日を経過する日以降も引続き雇用されることが見込まれること、③93 日を経過した日から 1 年を経過する日までに労働契約期間が終了し、かつ、労働契約の更新がないことが明らかである者を除く、となっているものを、②の要件を削除し、③の要件を「休業開始予定日から起算して 93 日を経過する日から 6 か月を経過する日までの間に、労働契約期間が満了し、かつ、労働契約の更新がないことが明らかである者を除く。」とすることが適当であるとしている。これに伴い、育児休業の取得等を理由として契約を更新しないことは、不利益取扱いに該当するために禁止されることを明確にするべきであるとしている。

(ウ) 育児休業等の対象となる子の範囲について

報告書は、特別養子縁組の監護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子などの法律上の親子関係に準じるといえるような関係については、育児休業制度の対象とするべきことを提言している。

(エ) 妊娠・出産・育児休業・介護休業をしながら継続就業しようとする労働者(男女双方)の就業環境の整備について

報告書は、事業主による妊娠・出産・育児休業・介護休業を理由とする不利益取扱いの禁止に留まらず、上司・同僚からのハラスメントに当たる行為を防止することが必要であり、セクシュアルハラスメントの防止のために事業主に義務付けられている措置を参考に、雇用管理上必要な措置を事業主に義務付けることを提言している。なお、防止措置の対象とについては、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に規定される不利益取扱いにおける「理由となる事由」や「行為類型」を前提とすることが適当であるとしている。

(オ) 派遣労働に対する妊娠・出産・育児休業・介護休業を理由とする不利益取扱い等について

報告書では、派遣労働者については、派遣先もまた事業主とみなして上記(エ)の措置を適用すべきであるとしている。

(カ) その他

報告書は、男性労働者も含めた育児休業取得の促進のための制度の周知、企業での好取組事例の紹介などを行うことが適当であるとしている。

以上

執筆者

原 文之 (はら ふみゆき)
株式会社オフィシア 法律顧問

東京大学法学部卒、ロンドン・ビジネススクール卒 (MBA)、東京大学法科大学院卒 (法務博士)。BNPパリバ銀行ならびBNPパリバ証券会社にて商品開発部(デリバティブ)部長、コンプライアンス部部長。その後、UBS証券マネージングディレクター、コンプライアンス部部長。

国際銀行協会証券分科会理事、株式会社保険振替機構取締役、日本証券業協会自主規制企画委員会委員を歴任。

資格

弁護士