コラム

[2019-2020年版] 金融機関がハラスメント対策として実施すべき11の対策

[2019-2020年版] 金融機関がハラスメント対策として実施すべき11の対策

執筆者
株式会社オフィシア代表
原 美聖

職場のハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置については、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に基づく厚生労働大臣の指針により定められています。また、2019年5月に公布された改正労働施策総合推進法では、厚生労働大臣はパワーハラスメントについても同趣旨の指針を定めることとされています。

それでは、厚生労働大臣の指針に示された「事業主が講ずべき措置のポイント」11項目について検討しましょう。

11の項目は次の5つに分類されています。

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 
  • 職場におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応 
  • 職場における各種ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
  • 上記1から4までの措置と併せて講ずべき措置

 

(A)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

  • (1)方針の明確化

組織のトップがハラスメントを許さないという基本方針を宣言すると同時に、各部店の部店長もハラスメントのない職場を目指すことを宣言することが重要です。トップのメッセージは行内のイントラネット、ポスターで周知するとともに、部店長は各種の研修、会合等で繰り返し決意を語ることが良いでしょう。その際に具体的な例を用いて話をすることにより、トップの宣言が単なる建前でないことを明確にしましょう。

マタハラ、セクハラ、パワハラについては法律・指針によりその内容が明らかにされています。特にボーダーラインのケースについて誤解がないよう、わかりやすい解説を文書化しイントラネットでの公開、執務室への備置き等により誰でも参照できるようにする必要があります。また、妊娠・出産・育児休業等に関する制度の解説も併せて周知し、対象者が容易にこれらの制度を利用することができるような環境を整えるべきです。

 

  • (2)就業規則等の文書への規定、その内容の周知・徹底

マタハラ、セクハラ、パワハラいずれについてもハラスメントにあたる行為や言動には厳正・公正・適切に対処することを就業規則又はそれに付属するハラスメント防止基本方針等において明確に定めることが大切です。この文書においては、被害者又は第三者による相談・通報に始まり、被害者及び行為者双方からの事実確認、処分の最終決定までの手続きを具体的に規定することが望まれます。内容の周知には上記(1)と同様、イントラネット、執務室への備置き等が考えられますが、二次被害等の弊害が発生しないケースについては、実例を紹介することも周知の手段として有効です。ただし、被害者・行為者・関係者のプライバシーに対する十分な配慮が必要であり、当事者が推測されるような公表は避けるべきです。

 

(B)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

  • (3)相談窓口をあらかじめ定めること

相談窓口は、複数設けましょう。相談窓口が現場から離れるほど、窓口の中立性、守秘性に対する信頼は増しますが、その代わり、相談窓口にコンタクトする心理的ハードルが高くなります。「実際にハラスメントにあたるかどうかわからないので教えてほしい」、「ルールや制度について聞きたい」などの問い合わせも含めて、相談しやすい窓口になるように周知をしましょう。また、社外の専門家(コンサルタント、EAP、法律事務所等)にも相談できるようにすることが望ましいと思われます。

 

  • (4)相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

相談担当者が適切に対応しなかった場合、相談者の被害感情が相談前よりも増大し、相談が逆効果になることもあります。経験が十分でない相談担当者に対しては十分な研修を行う必要があります。また、人事部門等に設ける専門部署の相談担当者には特別の研修を行う必要があります。相談を受ける場所も重要で、プライバシーが保たれる個室で対応できるように留意しましょう。

相談を受ける以上は、その後の手順が明確に定められており、相談者を適切に導く必要があります。したがって、相談窓口の開設は少なくとも、下記の(5)以下の措置と同時に行うべきです。また、相談を受ける回数が増えれば増えるほど、窓口担当者の知識とスキルが向上することは明らかです。

 

(C)職場におけるセクシュアルハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

  • (5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること

事実関係を確認するためには、被害を受けたと感じている人、行為者、周囲の第三者(上司、同僚など)から話を聞くことが必要になります。当事者のプライバシーと二次被害の防止に配慮しつつ聞き取りを行うことは簡単ではありません。行為者や周囲の第三者から話を聞く場合には、被害者の了解を得たうえで、秘密を守ることを確認したうえで聞き取りを行うべきです。事実確認の進捗状況については、必要に応じて被害者に情報提供するようにしましょう。

 

  • (6)事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと

ハラスメントの有無の判断基準において最も重要なのは、被行為者が被害を受けたと感じたかどうかですが、これは人によって異なります。窓口担当者の主観により「そのくらいは大したことではない。」などといって取り上げないのは、被害者の孤立感を深める結果になります。行為者に対してどのような対処・処分をするかとは別に、また仮に行為者にハラスメントにあたる行為がなかったという結論になった場合であっても、被害者の気持ちを大切にして寄り添うことが重要です。この場合でも、職場における人間関係の改善や被害者のメンタルヘルスの回復の観点から行うべき措置があるかもしれません。相談をしたことによって被害者が不利益を蒙ることがないように目を配る必要もあります。

 

  • (7)事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

行為者に対しては、その地位や行内における立場にかかわらず公正・公平な措置を行う必要があります。ハラスメント行為の態様は様々ですので、ケースバイケースの対応が求められますが、制度が信頼されるためにも公平感を保つことが大切です。

 

  • (8)再発防止に向けた措置を講ずること

再発防止には、同じ人物によるハラスメント行為を防ぐという意味と、組織として同様のハラスメント事案を防ぐという二つの意味があります。行為者に対しては、社内処分を行うだけでなく、研修等により自分の行為を反省し、職場におけるハラスメント防止のリーダーに育てるような方針で臨むことが大切です。また、ハラスメント行為を行為者の個人的な資質の問題のみとするのでなく、組織文化、マネジメントの姿勢、職場の人間関係も分析し、根本原因を取り除くことが大切です。例えば、パワハラが横行する組織では、無理な業績目標が設定され、職場の人間関係が荒廃していることがあります。このような問題が見つかった場合には、リーダーシップ研修や360度評価の導入により適正なマネジメントが行われるような対策が望まれます。

 

(D)職場における各種ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

  • (9)業務体制の整備など、事業主や妊娠した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること

厚生労働大臣の指針では、望ましい取り組みとして「妊娠した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲との円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つことを周知・啓発すること」が紹介されています。セクハラ、パワハラとの関係では、取引先やITベンダー等の外部委託先の担当者等に対するセクハラ、パワハラにも注意の周知が必要です。金融機関は、借入人(企業・個人)に対して優越的地位に立っていると思われる場合があるため、金融機関の役職員は借入人と接する際に高圧的な態度を取ったり、ハラスメントと取られる言動をしないよう留意する必要があります。また、自行の役職員が取引先等からセクハラ、パワハラを受けたという情報に接した場合には、取引関係に配慮して対応を曖昧にしてはなりません。これも、ハラスメント防止基本方針等において文書化すると良いでしょう。

 

(E)上記1から4までの措置と併せて講ずべき措置

  • (10)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること

相談者のプライバシーだけでなく、行為者のプライバシーにも十分配慮した対応をする必要があることを、相談担当者だけでなく、人事部門の責任者、行為者の上席者、役席、本部役員全員に徹底する必要があります。個人名等が直接に漏洩されない場合でも、関係者の情報が推測できる場合にはプライバシーが保護されたことにはなりません。研修等において実際のケースの紹介をすることは研修の効果を上げるための有効な手段ですが、その際には専門部署によるチェックを受けたテキストを使用することにより、不用意に個人のプライバシー侵害されることがないようにします。

 

  • (11)相談、事実関係の確認に協力等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、周知・啓発すること

ハラスメントの相談をしたり事実関係の確認に協力したこと等を理由に、金融機関が組織として職員に対して不利益な取扱いをすることは通常は考えられませんが、相談者が所属する部店において「村八分」的な扱いを受けるなど、非公式な形で不利益な取扱いを受けることも考えられます。こうした事態を防ぐため、非公式な形でも不利益取扱いは許されないことを基本方針等において明確に定めると同時に、個別の相談事案があった時には相談者等に事後的なヒアリングを行い、不利益がないことをモニターする必要があります。

厚生労働大臣の指針には明示的に定められていませんが、事業主としては職場におけるハラスメントの状況、それに対する対応状況を常にモニターする必要があります。特定の部店においてハラスメント事案が多発する場合には、その部店のマネジメントに問題があるとが考えられるため、根本的な原因を解明し対応措置を取ることが望まれます。現状のモニタリングのためにはアンケートの実施なども考えられますが、人事面接、各種研修などの機会をとらえて日常的に情報収集することが重要です。

執筆者

原 美聖 (はら みさと)
株式会社オフィシア 代表取締役

上智大学卒。JPモルガンにて資金為替部、グローバルマーケット部に勤務後、株式会社オフィシアを創業。官公庁、大手金融機関、一般企業向けに人事コンサルティング、研修を多数実施。

官公庁・企業向けのコンサルティング、カウンセリング、研修を実施するかたわら、東京家庭裁判所非常勤職員 (人訴事件担当参与員) を務める。また、東京都若者相談 [若ナビ] 事業責任者、日本ゲシュタルト療法学会監査役を歴任。

資格

公認心理師、キャリアコンサルタント、シニア産業カウンセラー、EAPコンサルタント

 


 

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