コラム

在宅勤務 (テレワーク) における上司・部下のコミュニケーション

在宅勤務 (テレワーク) における上司・部下のコミュニケーション

執筆者
株式会社オフィシア代表
原 美聖

2020年初頭から、新型コロナウイルスの感染が広がりを見せています。多くの企業では、従業員を守る観点から在宅勤務 (テレワーク) の導入を行っており、既にGMOインターネットグループ、ドワンゴ、電通、資生堂などが原則在宅勤務 (テレワーク) に移行、またNTTグループグループ、東芝、ソニー、ソフトバンクなどでも在宅勤務 (テレワーク) を推奨する動きとなっています。

新型コロナウイルスの感染が相次いでいる現状を考えると、従業員の安全を守るうえでの在宅勤務 (テレワーク) は望ましいものと言えますが、人事の観点からはどのような問題が生じる可能性があるのでしょうか。以下で見ていきましょう。

 

 

在宅勤務に関しての問題

問題(1): 部下の管理

部下と上司がオフィスで机を並べて仕事をしていれば、部下が今何の仕事に取り組んでいるかをすぐに理解できるため、上司は質問や確認、アドバイスを行うことができます。

しかし、在宅勤務 (テレワーク) になると、部下が今何の仕事をしているか、具体的にはどの作業を行っているかが見えにくくなります。

部下の具体的に取り組んでいる仕事が何であるかが見えなくても、部下がきちんと結果をだしてくれればよいですが、「部下が行っている仕事の内容がよく見えなかったので、必要なアドバイスを行えず、結果失敗した」となってしまうと、問題です。

 

問題(2): 仕事の進め方

各個人の業務上の責任範囲が明確でない場合に、特に起こりやすい問題です。

毎日の状況を見ながら必要な都度、上司が部下に仕事を割り当てていくような仕事スタイルは、対面で部署全体の状況が見えるから成り立つ仕事スタイルです。

在宅勤務 (テレワーク) になると、全体の状況を把握するのに時間とコミュニケーションコストがかかるため、「都度仕事の内容を決めて指示する」タイプの働き方は難しくなります。

 

問題(3): 若手社員の「指示待ち」

経験の浅い若手社員の最近の傾向としては、「上司からの指示がないと動けない」といった、いわゆる「指示待ち」というのがあります。

指示を与えられれば、100%指示通りの結果を出すものの、指示がなければ「何をしていいのか分からないので、上司からの指示があるまで待とう」という判断になるため、自分から必要な仕事を探して取り組んでくれることは少ないのです。

背景にあるのが「不安」の感情なので、在宅勤務になると「業務でわからないことがあっても、誰にも聞けない」ので不安を煽ることにもなるでしょうし、「指示がない=することがない」と捉えて、自宅で時間を無駄に過ごし、生産性も下がってしまいかねません。

また上司も、「若手社員が自分の判断だけでミスを起こすのではないか不安なので、責任のある仕事を任せられなくなる」という状況が生まれてくるでしょう。

 

 

在宅勤務を行う際に取り組むべき3つのアクション

 

アクション(1): 「タスク管理」と「仕事の見える化」を推進

これまで「阿吽の呼吸」で業務を進めてきた企業や部署は要注意です。

同じ場所にいる人たちが、顔を突き合わせているから業務が行えている、という仕事スタイルだと、在宅勤務 (テレワーク) を導入したとたんに業務が回らなくなります。

オフィスの状況を見まわして、仕事を采配する上司がその力量を発揮できなくなるためです。

こうした職場で、在宅勤務 (テレワーク) の導入を検討する場合は、仕事の仕方、進め方、共有の仕方自体を変える必要があります。

例えば、「だれがどの業務をどのように行っているのか、内容も進捗も分からない」のではなく、「日々の細かい業務内容が見えている」「1週間、2週間先までにやるべきタスクが明確で、かつ共有されている」といったタスク管理もその一つです。

大きな「仕事」を「タスク」に分解し、担当者を割り当て、期限を設ける。そして、誰がいつどの仕事をしているかを部署内で共有しあうことで、お互いの進捗も理解しあえるようになります。

そして「指示待ち社員」であっても、あらかじめタスクが割り当てられていることで、指示を待つという時間の無駄を回避できるようになります。

また、オフィスにいれば「最近、仕事どうですか?」と雑談することで、お互いの仕事の状況などを理解できますが、在宅勤務 (テレワーク) ではこうした雑談は激減します。

これを「雑談を通じて理解しあう」のではなく、「仕組み・ツールを通じて理解しあう」ようにするのも、在宅勤務 (テレワーク) における見える化の重要な役割です。

上司は部下の業務の進捗をしっかりと把握することが必要になってきますので、その日の進捗や作業成果を終業時にチェックできるようなシステムの導入が有効でしょう。

 

アクション(2): コミュニケーションを制度化する

当社がコンサルティングでお手伝いさせて頂いたお客様には、よくこのようにお伝えしています。

  • 「時間がある時に部下とコミュニケーションを取る、のではいけません」
  • 「部下とコミュニケーションを取ることこそ、上司の業務です」

部下のいる上司であれば、業務時間の大半を自分の業務に追われるのは望ましくありません。

業務時間の半分程度を、部下とのコミュニケーションに充てることこそ必要ですよ、とお伝えしています。こうお伝えすると、みな「えっ、そうなのか」「そういう発想もあるのだな」と納得されます。

この話は在宅勤務 (テレワーク)かどうか に関係なく、それくらいコミュニケーションは重要だという話です。

これが在宅勤務 (テレワーク) となると「物理的に部下が見えなくなる」ので、コミュニケーションを意識的に取る、またはコミュニケーションを取ることを制度化することが大切になってきます。

例えば、上司と部下が1対1で打ち合わせをする「1:1ミーティング」は、部下の仕事の進捗について把握するだけでなく、仕事における手助け、部下の状態、今後の方向性などをざっくばらんに話す場として活用できます。

しかし、「1:1ミーティングを行う上司」と「行わない上司」が社内で混在するようでは、会社全体として十分なコミュニケーションが行えているとは言い難いです。

よって、在宅勤務 (テレワーク) を検討・導入する企業は、「週に1度、最低30分、直属の上司と部下で打ち合わせを持ち、以下の内容について議論を行うこと」というように、コミュニケーション自体を制度化してしまい、コミュニケーションの機会を意識的に作り出すことが必要となります。

 

アクション(3): 管理者のコーチングスキル育成

上司と部下が週1回、定例で1:1ミーティングを行ったとしても、部下の指導や育成に必要なスキルが十分でなければ、上司にとっても部下にとっても意味のない1:1となります。

ここで重要となるのは、上司のコーチングスキルです。

多くの上司(マネージャー)は、部下がいなかった時代の「担当者としての優秀さ」からマネージャーに抜擢されています。しかし、担当者としての優秀さと、マネージャーとしての優秀さは当然異なるにもかかわらず、十分なトレーニングを経ずにマネージャーになった方が多いのが実情です。

物理的に対面できない在宅勤務 (テレワーク) という状況で、コミュニケーションを有意義なものとするためには、上司が適切な教育プログラムや研修を通じて、コーチングスキルを身につけていることが重要となります。

 

加えて:部下の評価基準の見直し

在宅勤務(テレワーク)では、部下を評価することがこれまでより難しくなります。つまり、従来のような「忙しそうにしているから仕事をしているのだろう。遅くまで残っているので頑張っているに違いない」という視点での評価はできなくなり、より成果中心の評価にならざるを得ないでしょう。これも見方を変えれば、見せかけのパフォーマンスを除くチャンスとも言えますので、評価基準を見直す良い機会と捉えましょう。

一方で、結果しか見えないので、それぞれの仕事の難易度や創造性の必要度合いなどを勘案し、個々人のタスクに合わせた細やかな評価基準を設ける必要があるでしょう。

 

 

在宅勤務を「働き方改革」の契機に

今回の新型コロナウイルスの広がりの中、いち早く在宅勤務 (テレワーク) に踏み切った企業の方の多くが、「在宅勤務 (テレワーク) はストレスなく仕事に集中できてよい」「通勤しないのはこんなに楽だったのか」と喜びの声をあげています。

企業文化や業務の性質上、在宅勤務 (テレワーク) では無理というケースも多々ありますが、今後「在宅勤務 (テレワーク) 」という制度は災害対策だけでなく、優秀な人材を採用するうえでも重要な武器となりえます。

また、本当に必要なタスクの棚卸しをして、不要なタスクを明確にする良い機会にもなるでしょう。

よって、今回の新型コロナウイルスの経験をプラスに捉えて、今後更に制度やツールを整えることで、「週5回オフィスで勤務」以外の選択肢、例えば「週3回オフィス勤務、週2回在宅勤務 (テレワーク) 可能」というように、育児や介護など様々な事情を抱える従業員の状況に合わせた具体的な働き方を提示することも可能となります。

新型コロナウイルスの広がりは非常に懸念される事態であり、一日も早い収束が望まれますが、ここから生まれた「多様な働き方」という灯を消さず、本当の意味での「働き方改革」につなげて頂ければと願ってやみません。

 

執筆者

原 美聖 (はら みさと)
株式会社オフィシア 代表取締役

上智大学卒。JPモルガンにて資金為替部、グローバルマーケット部に勤務後、株式会社オフィシアを創業。官公庁、大手金融機関、一般企業向けに人事コンサルティング、研修を多数実施。これまでの研修受講者は累計35,000人を数える (2019年6月現在)。

官公庁・企業向けのコンサルティング、カウンセリング、研修を実施するかたわら、東京家庭裁判所非常勤職員 (人訴事件担当参与員) を務める。また、東京都若者相談 [若ナビ] 事業責任者、日本ゲシュタルト療法学会監査役を歴任。

資格

公認心理師、キャリアコンサルタント、シニア産業カウンセラー、EAPコンサルタント