コラム

電通・クリエイティブディレクターの処分から考える: 優秀な人材のパワハラに、組織はどう対応すべきか

電通・菅野薫氏の処分から考える: 優秀な人材のパワハラに、組織はどう対応すべきか:オフィシア

執筆者
株式会社オフィシア代表
原 美聖

2020年1月、東京オリンピックの開会式、閉会式の演出・制作を担当する、広告代理店・電通のクリエイティブディレクターが、電通社内でのパワハラを理由に懲戒処分を受けたことから、東京オリンピック関連の役職を辞任しました。

このクリエイティブディレクターは、2016年のリオデジャネイロオリンピックの際に、スーパーマリオなどが登場する東京オリンピックの予告ムービーを制作したことでも有名で、著名な広告作品を多く手掛ける電通クリエイティブ部門の「トップスター」とも言える人材でした。

電通社内でこれまで、具体的にどのようないきさつがあったのかを垣間見ることはできませんが、これは電通だけの問題ではありません。どの企業でも、「会社のトップスター」のような人材がパワハラを起こすことはあり得ます。このような問題が発生した際に、どのように対応すべきかを以下でご紹介します。

 

 

優秀な人はパワハラを行っても守られることが多かった

まずは、パワハラについて基本的な理解を確認しましょう。パワハラとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるようなもののことです。優秀な社員は、職場における職位上の地位がなかったとしても、その優秀さがゆえに、周りの労働者に対して「優越的」な関係を持つことが多くあります。

優秀な人が全てパワハラをするわけではありません。しかし、優秀さがゆえに力を持つので、この力を使ってパワハラを行ってしまう場合が往々にしてあります。例えば、「優秀な社員が、同じ職位だがそこまで優秀でない社員に対して、パワハラを行う」こともあり得ます。

では、これまでに「パワハラを起こした優秀な社員に対して、公正な処分が行われたか」というと、必ずしもYESとは言えないでしょう。例えば、人一倍優秀な営業部員がパワハラを起こしたとしても、その人材を営業部から外すと、営業部全体の売り上げに影響が出てしまいます。

特に多くの収益を上げる社員は「よい社員」ですので、処分があいまいになったり、逆にパワハラを訴えた社員がしっぺ返しをうけてしまう「セカンドハラスメント」となりがちでした。マタハラ対策やセクハラ対策と違い、パワハラ対策は法制化されていなかったためです。

 

 

恣意的なパワハラ対策では、法令により事業主に求められた雇用管理上の必要な措置を講じたことにはなりません

こうした状況は、2019年6月に成立した「改正労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)」の施行後に一変します。

パワハラ防止法が施行された後は、「パラハラ防止のための対策とその運用」が具体的に求められ、「優秀な人材だから、パワハラを起こしたといっても大目に見よう」といった特別扱いは認められなくなります。こうした特別扱いは「企業ぐるみのパワハラ隠蔽」と判断され、場合によっては、企業名が公表され、信用が失墜する事態になってしまうため、注意が必要です。なお、パワハラ防止法は、大企業については2020年6月頃の施行、そして中小企業には2022年6月頃の施行が予定されています。

ではどのように対策するかです。事業主は、厚生労働省が作成した実施細目である、「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針(以下、指針)」を用いて、組織内のパワハラ対策を行う必要があります。この指針を正しく運用すれば、パワハラを防止できることが期待され、また万一それでもパワハラ事案が発生した場合でも、事業主として行うべき措置は講じていたということができます。

電通のクリエイティブディレクターが社内処分されたのも、大企業である電通では「パワハラ防止法」と同等の対策が行われており、法律施行前に既にパワハラ対策が正しく運用されていたためではないかと推察されます。

 

 

指針に沿ったパワハラ対策を行う3つのポイント

パワハラ防止を正しく理解し、指針を用いて正しくパワハラ対策を運用すれば、どの企業もパワハラを予防できる企業となります。ここで、どのように準備を進めていけばよいかを、3つのポイントに分けてお伝えせします。

 

(1)指針に沿った実施事項を具体的にする

厚生労働省の指針に書いてあるのは「〇〇しなければならない」といった内容です。しかし、「〇〇しなければならない」とあっても、具体的に〇〇をどのように行えばよいかまでは記載されていません。

よって、自社の業態や組織に鑑みて、指針に記載されている内容を「翻訳」する必要があります。

例えば、指針には「職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること」という記載があります。ここで具体的にどのように「周知・啓発するための研修・講習等を実施」するかを決めるといった具合です。

 

(2)セカンドハラスメントが起こらないよう、窓口担当者を育成する

「セカンドハラスメント」とは、ハラスメント被害者が社内窓口に相談した際に、窓口担当者が「優秀な社員のパワハラ事案であったため、何も対応してくれなかった」「被害を訴えたら逆に非難された」「『それくらいは我慢しなさい』とパワハラを受容するよう言われた」際などに起こるものです。

ハラスメントから訴訟になっているケースの大半は、ハラスメントそのものに加えて、このセカンドハラスメントが原因となっています。つまり、セカンドハラスメントが横行する運用を放置することは、企業にとって非常にリスクが高いと言えます。

これを防止するためには、窓口担当者が法律と指針を理解して、具体的な行動に落とし込むことに加えて、個別の対応を適切に行う必要があります。窓口での対応経験のある従業員が、新たに窓口スタッフとなる従業員のトレーニングをする、または当社のような人事コンサルティング・研修会社を利用するなどの必要があります。

 

(3)企業風土・企業文化を変える

パワハラが起こるのは、企業風土、企業文化と大きく関わりがあります。例えば、パワハラを見かけた人が「それはだめですよ」と指摘できないのは、「自分が今指摘すると、自分に不利益がある」と思ってしまうためです。言い換えると、「それはパワハラですよ」と言える風土・文化の企業では、パワハラは起こりにくいのです。

これを変えるためには、「パワハラを直接指摘しても不利益がない」「パワハラ事案の調査があったときに『確かにパワハラがありました』といっても不利益がない」「社内で力がある人がパワハラを起こしても、特別扱いされない」ような職場にすることです。パワハラをなくすために企業風土や企業文化を変えることは、遠回りに見えますが、実は近道だったりします。

 

 

パワハラが起こりにくい職場づくりを

優秀な人材は、その優秀さゆえに力を持つようになります。パワハラ防止法施行後、優秀な人材がパワハラを起こし、これが公平に対処されなかった場合、企業は大きなリスクを負うことになります。

これを防ぐためには、(1)指針に沿った実施事項を具体的にする、(2)セカンドハラスメントが起こらないよう、窓口担当者を育成する、(3)企業風土・企業文化を変える、といった対策が必要になります。

 

当社は、上場企業から政府・官公庁まで、年間に数十件のパワハラ対策のコンサルティング・研修を実施する「パワハラ対策のプロフェッショナル」です。パワハラ全般に関するご相談、経営者や管理職向けの研修、また窓口担当となる社員の育成などに関するご相談、お問い合わせがございましたら、お問合せフォームよりご連絡ください。

 

執筆者

原 美聖 (はら みさと)
株式会社オフィシア 代表取締役

上智大学卒。JPモルガンにて資金為替部、グローバルマーケット部に勤務後、株式会社オフィシアを創業。官公庁、大手金融機関、一般企業向けに人事コンサルティング、研修を多数実施。これまでの研修受講者は累計35,000人を数える (2019年6月現在)。

官公庁・企業向けのコンサルティング、カウンセリング、研修を実施するかたわら、東京家庭裁判所非常勤職員 (人訴事件担当参与員) を務める。また、東京都若者相談 [若ナビ] 事業責任者、日本ゲシュタルト療法学会監査役を歴任。

資格

公認心理師、キャリアコンサルタント、シニア産業カウンセラー、EAPコンサルタント